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アメリカBIM視察旅行報告②

取材協力:オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ サンフランシスコ支社 清野新氏、Ed Paul氏




アメリカ視察2社目は、世界33カ国に支社を有し、建築・土木・都市計画など幅広い分野に精通する技術コンサルティング会社であるオーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ(以下ARUP)で行いました。とくにBIM分野においてARUPでは、3種の業務:BIM Production(モデル作成業務等), BIM Management(関係者間調整、プロジェクトマネジメント等), BIM Advisory(おもに発注者に対する成果検証やコンサルティング等)を業務としています。また、同社ではBIMマネージャーという役職を設けており、地域ごとに支社を横断してBIMにかかわる業務の統括を行っています。

 

―ARUPにおけるBIM業務について

現地では、ロサンゼルス支社にて西海岸の支社を統括するBIMマネージャーであるEd Paul氏に主に同社のBIM Management業務についてお話を伺いました。ARUPではBIMマネージャーは各プロジェクトチームに配置されます。意匠設計者、エンジニア間でBIM業務が円滑に進むように管理することや、モデリング自体をアウトソースするケースではその委託先との品質管理が主な役割となり、社内ガイドラインにのっとって管理がなされます。

また、BIMを用いた運営管理に関するアドバイザリー業務の中でクライアントが必要なデータを竣工後にモデルから取り出すという一方向的なプロセスの場合、膨大すぎて処理できない量のデータが出力されてしまう状況が、頻発します。それを改善するために、BIMモデル作成時点で設計に必要なデータとは別に、クライアントや施工者が後から必要になるデータをシート化し、またそれをモデルに反映させるという双方向的なアプローチを試みるなど、やはりBIMが普及したアメリカでは、より進んだステップのサービスが必要となってきている状況がわかりました。

 

―エネルギーシミュレーションツール “EnergyBox” について

ARUPサンフランシスコ支社にてサステナビリティコンサルタントとして働く清野新氏が開発した、エネルギーシミュレーションツール”EnergyBox“についてもお話を伺いました。

このソフトウェアは、膨大なパラメーター処理が必要な環境シミュレーションにおいて、煩雑な入力作業をなるべく減らしたユーザーフレンドリー性と、カスタマイズができるオープンソース性の両立を図るということを目指して作られた画期的なツールです。最も特徴的なのは、パラメーターを入力してシミュレーションを行うのではなく、データベースからパラメーターを抽出してモデリングに反映し、シミュレーション、解析を一括で行える点です。この転換により、時間効率の向上だけでなくヒューマンエラーの防止にもつながり、よりデザインの本質的な作業に集中することが可能になることを目指しています。また設計の変更とシミュレーション結果の影響がタイムラグなく見られるというのは、設計者の立場からも非常に魅力的なツールだと感じます。

BIM推進の立場から興味深いと感じたのは、このソフトウェアの開発の発端となったのは、開発当時そもそも日本を含むやアジア韓国の設計事務所との業務の際にBIMが普及していなかったという背景だ、という清野さんのお話です。当時の日本や韓国では2D図面での作業が主となるため、シミュレーション用のモデルを立ち上げずに直接シミュレーションに活用する術が必要だった、こういう話をアメリカの同業者に話すと、なぜBIMを使わないのか?という反応が返ってきて、大前提が伝わらない。このような認識の違いを目の当たりにすると、日本の現状を客観視せざるを得ないなと思います。

 

―コミュニケーションツールとしてのBIMの可能性

設計事務所とは異なり、技術コンサルティング会社であるARUPでは、BIMは設計者とのコミュニケーションツールとしての役割が大きいです。また、発注者とのやりとりに使うことが多いため、BIMは生のデータの集合体という存在から発展して、よりビジュアル化や管理しやすい資料としての側面が強く求められているということが今回お話を聞く中で分かってきました。

ARUPにおけるBIM業務内容、またEnergyboxのような業務環境に合わせたソフトの必要性があるというお話から、今後は、設計者、コンサルタント、施工者、発注者それぞれの立場で設計者と関係者をつなぐコミュニケーションツールとしてBIMをより深く理解することがより求められる、と我々は想像します。言い換えると、設計ツールとしてのBIM以上に、円滑にプロジェクトを進める上でのコミュニケーションツールとしてのBIMのために必要な技術や人員の開発にもっとリソースを割くことが不可欠だということです。そして、BIMをきちんとコミュニケーションツールとして機能させるには、設計業務とは独立した職能としてBIMのエキスパートの存在が重要だと考えます。社内のBIMの体制を管理したり、社外もふくめたBIMの俯瞰的な知識を持ったエキスパートの必要性について、建設業界全体で議論をしていく必要があるのではないでしょうか。

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