アメリカBIM視察報告の第3回では、BIMソフトウェアRevitを開発するAutodesk社のBoston Build Space訪問時の様子を共有させて頂きます。
Autodesk社はアメリカ合衆国と英国で計4か所の製造業・建設業に特化したテクノロジーセンターを運営しています。そこでは新しい形でのリサーチやコラボレーションの土壌を作ることを目指し、ソフトウェアや最新機器が利用できる環境を入居者の企業や技術者に提供しています。今回は4施設の中で特に建設業にフォーカスしたボストン支社の現在の様子をレポートします。
テクノロジーセンター内にはAutodesk社の社員用オフィスのほかに、デジタルファブリケーションやロボティクス、さらには宇宙産業を扱うスタートアップまで、多様な入居者が混在するワークステーションがあり、社同士の情報交換やAutodesk社員とのコラボレーションを行いながら最新のデジファブ機器を用いて研究を進めています。
今回の視察では、Autodesk社の提供するBIMソフトウェアを用いてテクノロジーセンターで実際どのような興味深い研究が行われているのかを入居者当事者の視点から知るため、同施設で研究をしているYKK AP株式会社の秋山忠久氏と、Autodesk社の菱田哲也氏にお話を伺いました。
(以下敬称略)
―秋山さんの現在の研究内容を教えて頂けますか
秋山: 私はプロダクトデザイナーとして、こちらの施設にあるリソースを活用しながらジェネレーティブデザインや風解析シミュレーションなどの手法を用いて建築部材の最適な設計に取り組んでいます。現在、試作段階のものも含め4つのプロジェクトを進行しており、日本と密に連携しながら実際に商品化を目指しています。
そのうちの一つが、ジェネレーティブデザインを用いたカーポートの部材の開発です。豪雪時に屋根にかかる荷重や台風等を想定した性能、空間条件、材料、製造方法等のパラメータに基づいて数千通りの設計案をソフトウェアが自動生成します。出来上がった複雑な形状は、3Dプリント技術により製造可能です。
他にも、流体解析シミュレーションと3Dプリント技術を組み合わせた窓外部スクリーンの開発にも取り組んでいます。外部からの音を遮断しながら適度に風を通す形状にすれば、例えば寝室の窓を開けたまま快適に就寝することも可能です。
その他、歩行補助手すりなどの接合部品も3Dプリント技術での製造を模索しています。
―カーポートの部材等、一見ニッチなものを開発しているように思えますが
秋山:ジェネレーティブデザインを使えばより効率的に開発できることを今のプロジェクトで証明できれば、他の建材もジェネレーティブデザインや3Dプリントを使う流れになるでしょうし、それを期待して、まずは身近なものから開発を進めています。
―これから他の建材でも開発を進める上で、やはりデータが重要ということですね
秋山:そうですね。シミュレーションを動かすための建材レベルのデータにプラスして、その建材を組み上げたエリア全体の3Dデータがやはり必要です。例えば、先ほどのカーポートジョイントの話であれば、屋根に係る荷重をパラメータにして最適な設計をコンピューター上で出来たとしても、設定した荷重の数値が外部環境(積雪や風速等)に対して本当に適切なのかはカーポート全体で解析検証しなければなりません。
シミュレーションで生成されたデータの妥当性を図るためには、エリア全体で検証する必要があります。
―窓外部スクリーンのように居住者の快適性に直結するような建材のデータを建物のBIMデータと連携させることで、建物単位での様々な検証にも有効活用できそうですね
秋山:建物のBIMデータがあれば、そのような事も可能だと思います。窓外部スクリーンに関して言えば、住宅よりもビルのファサードに使用する方が実現可能性は高いと思います。住宅の居室ごとにスクリーンを作りこむのはコストと手間がかかる一方、ビルのファサードであればある程度規格化することでコストを抑え、尚且つ外装面積が大きい分省エネ効果が高いはずです。その為には、建物全体のBIMデータを有効活用したいですね。
―Autodesk社は、このような研究施設を敢えて置くメリットをどのように考えているのでしょうか
菱田:Autodesk社のオープンなカルチャーによるところも大きいですが、社外の方と繋がることで当社の研究開発促進にも繋がると実感しています。入居企業様がAutodeskのソフトウェアを使用して感じた改善点がすぐに我々の研究開発チームにフィードバックされますし、施設内で定期的に行われる研究発表会に同席させていただくことで弊社がどうご協力できるか議論を深めることもできます。
秋山:入居する企業の立場から言うと、私がここで開発した製品を日本で商品化・実用化する際には研究段階から使用しているAutodesk製ソフトをそのまま活用する可能性が高いですし、実際に使用している私が「このソフトは良いですよ」と日本に伝えれば納得感があります。そのような意味でも、オープンな研究施設を置くメリットがあるように思います
―理想的な施設ですが、日本にはまだ存在しません
秋山:Autodeskのソフトウェアや工作機器を借りられる上に、入居する他社と日々情報交換が出来る本当に理想的な場だと思います。ただ、日本で実現しようとすると、他社とのオープンな会話が制限され、おそらく成立しない気がします。アメリカでは、会社の成長を加速することに重点を置くので、情報交換しながらの研究の土壌があると思います。実際、この施設にも多くのベンチャー企業が入居していますよ。
建物の一部分から、より広範な建物全体までジェネレーティブデザインや3Dプリント技術の活用が広がる可能性を考えると、BIMを基幹ソフトウェアとして使用することは、他ソフトとの連携やAI技術を見据えた設計・施工には不可欠だと実感しました。実際に、オートデスクテクノロジーセンターで研究している企業の中には建設業界以外のスタートアップもあり、業種を超えてBIMデータを活用する意識が今後ますます重要になるはずです。
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