取材協力:Perkins & Will サンフランシスコ支社
Hui Wang氏(Architectural Designer)
Jeremy Luebker氏(Design Applications Manager)
今回私たち日本BIM標準機構株式会社は、”BIM先進国”といわれるアメリカ合衆国に赴き取材を行いました。2023年現在、設計事務所におけるBIMの普及率が大手では100%、中小でも3割以上といわれているアメリカですが、実際BIMがどの程度有用に機能しているのか、またこれほどまでBIMが広がったのにはどのような背景があるのか、に焦点を当て、建設系の会社3社にヒアリングを行いました。
当日は、サンフランシスコ支社でBIMを含めたアプリケーション全体を統括するデザインアプリケーションマネージャーのJeremy Luebker氏はじめBIM普及の過渡期を体感してきた社員の方々に、当時の社会状況のお話から、CADからBIMへの移行を経験した設計者としてのパーソナルな体験談まで、幅広い観点でディスカッションを行いました。また同社でのBIM活用体制についても状況を伺いました。
お話を伺う中で、Perkins & WillのようにBIMのモデリングを自社の社員でおこなう会社では、社内でのBIMについてのルール化がかなり重要な役割を担っているということを認識しました。彼らは精緻な社内ガイドラインを作成することで社内のBIM教育を一貫し、ツールの更新による煩雑さや個人のスキル差を補うことを意識的に行っています。複数ある支社を統合するため、ガイドラインの作成や改正に特化した社内管理組織を有しているという点からも、彼らがルール作りを重要視していることが見て取れます。そして、徹底したガイドラインの作成と同じくらい重要なのがデザインアプリケーションマネージャーの存在です。彼らは社内全体のBIM成果物の品質の管理を行いながら、一般の社員では解決できない技術的問題の相談窓口としても機能しています。また同社は各地域の中小企業を吸収して拡大している関係で、必ずしもBIMネイティブではない企業の水準を本社基準に押し上げる必要があり、そのため社内の講習なども充実しています。このように社内のサポート体制を完備させることが前提となっている経営方針には、我々日本の企業も大いに見習うべきものがあります。
また、同社でのBIM活用が成功している理由としてカギを握るのが、関係者間で事前意識共有を行っていることです。Perkins & Willではプロジェクトの開始時に、施工者や協力コンサルティング会社など関係者間でBIMを含めたソフトウェアをどのように使うか明確な確認作業を行っています。BIMの活用範囲や、作業プラットフォーム、適材適所のBIM以外のソフトウェアの採用(たとえば外皮曲面造形のデザインにはRhinocerosを使用するなど)、また納品物の規格など詳細な条件も含めて最初に共有を行うことでソフトウェア関連のトラブルを少なくするような工夫がなされています。
現在Perkins & Will では、ほぼ100%がRevit環境となっています。CADからBIMへの移行期について「2006年あたりからBIMへの移行が始まっていたが、最初の5年間ほどは本当に大変だった。実際、近年になってやっと協力事務所や施工者含めBIMが前提となってきて、本当の意味ですべてをBIMで行えるというような実感がわいてきた。新しいツールを導入するのは高コストではあるが、耐えなければならない時期は誰にでもある。」というお話を社員の方から伺い共感すると同時に、アメリカの建設業界も長期的な試行錯誤を繰り返してきたという事実には勇気づけられるものがあります。体制やルール作りなど含めて、社内のBIM環境に誠実に向き合う彼らの姿は、日本国内でのBIM普及のハードルを越えるための大きなヒントとなるのではないでしょうか。
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